新常用漢字:朝日新聞の白石さんの記事を読む(2009年5月18日)

2009/05/18 當山日出夫

朝日新聞(大阪版)の5月18日(朝刊)。白石明彦編集委員の「新常用漢字表をよむ」が掲載になっている。見出しは、

審議の拙速 危ぶむ声 追加字種・字体の問題なお課題

とある。

審議の拙速は、もう、スタートの時点から分かっていたことである。すくなくとも、

国立国語研究所独立行政法人)の廃止→大学共同利用機関法人 国語研では「KOTONOHA」コーパスを作成中である。これは、もう、文化庁が、基礎的な日本語の実態調査にもどづく「国語施策」を放棄したことになる。凸版・新聞・WEBなどの調査で、「KOTONOHA」を凌駕できるか。「KOTONOHA」にも問題なしとはしないが、単純な単漢字頻度調査よりは、はるかに、日本語の実態を把握できるはずである。

・それはともかく、1年前の、最初の新聞報道(これは、事務的なミスもあったようだが)を見た瞬間、「こりゃダメだ」と思ってしまう。たいていの言語研究者なら、そう思うだろう。また、その後の経緯を見ても、納得のいかないことが多い。

・字体の問題については、今般の「新常用漢字(仮称)」を考えたときに、もう、はじまっている。なにせ、すでに、印刷標準字体がある。「JIS X 0213:2004」がある。また、ユニコードもある。そのなかで、字体を論ずることの困難さは、わかっていたこと。この件については、安岡孝一さん(京大)が、はやくから指摘している。

以上のようなことを象徴するのが、「椎」であると思っている(以前にも書いたが)。「しい」と読んで、植物名・人名(椎名など)として、排除していた。だが、「同型異字」(?)として、「椎(ツイ)」が、あることに、気づいた。で、途中であわてて追加案に加える。このような経緯であるとすると、どう考えても、お粗末の一言につきる。

拙速は避けるべき。しかし、ダラダラと小田原評定をやっていても仕方がない。とりあえず、2010年をめどに決める。その後、国家プロジェクトで大規模コーパスを継続的に構築しながら、定期的に見直していく。この方向しかあるまい。

そして、印刷標準字体の見直し。許容三部首・簡易慣用字体は、注記の形式ではなく、両方の漢字(字体)を、同列に並記する方式にあらためる。その解釈における運用によって、他の漢字表との整合性をさぐる。

白石編集委員は、「審議は、これから数ヶ月間が正念場となりそうだ」と結んでいる。この数ヶ月間の間に、こちらとしては、「ワークショップ:文字」の第3回(ひょっとすると、文字研究会としての第1回になる)と、これまでの発表の書籍化をすすめないといけない。(みなさん、御協力、よろしくおねがいします。)

當山日出夫(とうやまひでお)