『猿蟹合戦』は新常用漢字で書けるか

2009/05/29 當山日出夫

2009年5月27日
「しょうがいしゃ」の表記の多様性こそ大事である
へのコメントで、狩野さんがご指摘の件。ここに引用すると、

ところで、毎日新聞にも試案に批判的な意見が出ましたね。新聞協会の意見書に沿っているのであまり目新しいものはありませんが。
http://mainichi.jp/select/opinion/eye/news/20090527ddm004070159000c.html
https://my-mai.mainichi.co.jp/mymai/modules/weblog_eye103/details.php?blog_id=778#comment

さっそく見てみました。また、朝日新聞でも「アスパラクラブ」で類似のものが読めますが、これは会員登録が必要。

どう考えても、今回の「新常用漢字表」は「拙速」にすぎる。

(1)なんのための改訂であるか意味不明
(2)データが信用できない

この二つが、どうしようもなく相互に入りくんでしまっている。そのなかのひとつに、「聘」の字。この字、野村雅昭さん(ま、先生とはしないでおきます)も、朝日新聞で指摘していたはず。

大学の教員であれば、「特別招聘教授」などで、「いまでは」かなり日常的に目にする字になっています。(「いまでは」としたのは、「専任」ではないということで、昨今の大学事情による語であると判断できるからです。)

しかし、一般にはあまり使わないでしょう。「聘」だけ見せられて、読めて、分かって、書ける、という人がどれほどいるか。つかうとしても、おそらく、「招聘」に、ほぼ限定される。普通の日常生活に必要な字とは思えません。つまり「ひろばのことば」ではない。

ところで、ついでに、まったくどうでもいいけど、毎日新聞で指摘の「柿」は、植物としての「カキ」ですね(「こけら」じゃない)。動植物名でも、日常的に必要な字はあります。しかし、この議論は、もう少し将来を展望しなければ無理。

「ももたろう」の話しは、はたして、「常用漢字表」「新常用漢字表」で書けるだろうか。『翼よ、あれは何の灯だ』(清水義範ちくま文庫)に所収の『桃太郎vs.金太郎』を読みながら思ってしまった。

とうぜんながら、「柿」「蟹」の表記法によっては、『猿蟹合戦』は書けない。これも清水義範でいえば、『猿蟹合戦とは何か』。

日本で、ほとんど人が知っている、いわゆる「おとぎばなし」が書けるかどうか、「歌舞伎」よりも、とは言わないが、このような視点もあり得る。

當山日出夫(とうやまひでお)