「ひろばのことば」と「おとぎばなし」と「新常用漢字」

2009/05/30 當山日出夫

本来ならば、今日は、日本語学会で武庫川女子大の方にいっているはず、だったのですが、インフルエンザで中止。(学会のときに、特別割引で買うはずの本が買えなくなった、こまった。)

小形さんのご質問について、
「ひろばのことば」これは、基本的に小形さんの定義とかわりません。より多くのひとが、共通にコミュニケーションできるためのことば、と理解しています。

ただ、それに付加的にいえば、

(1)それは、単なる「頻度」調査からのみ、みちびきだされるものではない。

(2)強いていえば、「公共性」という方向も必要。たとえば、いくら使用頻度があっても、差別的な用法でのみ使用されるような「ことば」は避けるべき。

(3)まず、「ことば」があって、それを「漢字」ではどう書くか。仮名で書いても十分なものを、無理に漢字で書くことはない。

というようなことになります。で、猿蟹合戦。

ある視点からみれば、「おとぎばなし」も、「かぶき」と同様に、作られた伝統と考えます(カルチュラルスタディーズふうにいえば)。漢字で書くと「御伽噺」「歌舞伎」。しかし、ともに、いわゆる「和語」。

であるとしても、「おとぎばなし」は、日本の文化的伝統といえなくもない。そこで、どのような「ことば」が使用されているか、書物(児童書)には、どのような表記で書かれているか、これは、見てみる価値はあると考えます。すくなくとも、耳できいて、子供にも分かることばであるはずです。

かぐやひめ」は書けませんね。「蓬莱」「天竺」など、無理です。私見としては、これらの漢字が「新常用漢字」で書けるべきだとは思いません。ごく特殊な場面でのことばになります。

このようなことを考えるうえでも、どのような文献・資料で、どのような文脈で使われた「ことば」「漢字」であるのか、が分からないといけない。この意味で、「おとぎばなし」のことばの表記はどうであるか、ということが分かる調査が必要、ということです。

たとえば、「カニ」も「エビ」も似たようなものかもしれません(食べられる)。「エビ」は、「海老」で表記可能ですが、それはたまたま「海」「老」が、「常用漢字」に入っていて、組み合わせているだけ。「蝦」はもちろん「蛯」は無理。(この字については、笹原さんの研究があります。)

「ひろばのことば」とか「日本の伝統文化」というようなことを考えるとき、普通の「日本人」なら誰でも知っているはずの「おとぎばなし」での、使用語彙と表記、というのは、考えてみる価値はある、と思っています。

このようなことが考えられていないから、「新常用漢字表(仮称)」は、問題だ、といいたいのですが。

當山日出夫(とうやまひでお)