視聴者はどのくらい“漢字表記”を求めているのか

2009-08-22 當山日出夫

さて、気になったので、ダイレクトに上記の論文名で、Google検索。本家のNHK放送文化研究所がトップにヒットするのは当然としても、その次には、私がさきに書いたものが出る(この間、ほぼ半日経過している)。さらに見ても、新常用漢字表をめぐる議論のなかで、本格的に言及・引用してあるものは、(Google検索によるかぎり)多くは見当たらない。

だが、この論文は、これまで「新常用漢字表」について種々に議論されてきたことを考えるうえで、必須であると、私は判断する。


メディア研究部(放送用語) 塩田雄大
視聴者はどのくらい“漢字表記”を求めているのか〜「放送における漢字表記についての調査」から〜
http://www.nhk.or.jp/bunken/book/pdf/d08.pdf


そう長い論文ではないし、難解でもない。読みやすい。まず、基本のスタートとして、コンピュータによって漢字がつかいやすくなったから字を増やす、情報化時代への対応、ということについて、次のようにたとえてあるのは、秀逸である。

この「191 字追加・5 字削除」案は,おもに,文字データ(書籍を基本資料とし,教科書・新聞・ウェブサイトを補助資料としたもの)の出現頻度を資料として導き出されたものである。つまり,現実に使われている漢字(=実態)を,新たに「目安」の中に取り込もうという立場による発想である。日本人がそれらを実際にどの程度「読めるのか」という観点は含まれていない。これは,例えるなら,

としたうえで

ある道路について,これまでは制限速度を時速50kmと定めてきた。しかし実態を調べてみたところ,それ以上の速度で走る車も多かった。そのため,法規と実態のズレを小さくする観点から,制限速度を60km に改める。

制限速度を60km に改める前に,もしそのように変更したとするとどのようなことが起こりうるのか,あるいは,公的に60km に改めることを望ましいと思っている人がどのくらいいるのか,ということを調査しておく。

と、たとえて述べている。

この文化審議会とは別の考え方として,これらが現実に使われていることを踏まえたうえで,その漢字(=表外字)を日本人はどの程度読めているのか,あるいは,漢字で書いたほうが望ましいと思っている人はどのくらいいるのか,ということをあらかじめ調べてから判断するという立場もありうる。

この指摘は重要である。

まずは、このような基礎的な調査をきちんと行ったNHK放送文化研究所に敬意をはらいたい。そして、同時に、まず、このような基本的なことも調査しないで(いや、それ以前に考えもしないで)、ひたすら合意のための合意として、新常用漢字表の制定のスケジュールをこなしているだけの、委員会のひとたちに、たちどまって考え直してもらいたいと、思う次第である。

これは、あくまでも「放送」という立場からの論文として、新常用漢字論において必読である。では、さらには、「報道」という立場から、「教育」という立場から、同様の調査研究があっていいはずである。

當山日出夫(とうやまひでお)