NHKによる新常用漢字表の調査

2009-08-22 當山日出夫

たまたま、今朝(2009-08-22)の朝のNHKのニュースで、新常用漢字表のことをとりあげていた。基本的には、追加候補(191字)のうち、「読める字/読めない字」を、主に若いひとを対象にした調査の報告。

たとえば、読めない字(厳密には「語」とすべきか)
「葛餅」※番組では、「葛」は「0208字体」で表示。「餅」も拡張新字体
「鹿の子」
さらに、読めない字、ほとんど1〜2%に近い、となると、
「領袖」
「陶冶」
「進捗」
など。

言語研究の視点からは、理解語彙と使用語彙、その表記の関係ということになる。

上記、番組で紹介の事例のついて、「葛餅」単独では読めない(知らない)としても、「葛飾」という地名であれば、読めるはずである。今のわかいひとたちで、「こち亀」を知らないということは、無いであろうから。

「葛餅」を知らないとしても、年末になって、「餅つき」「かがみ餅」という文脈をあたえられた中であれば、読めるだろう(と、思う)。餅つきをやっている画面が映像で見えている状況で、説明の文字として「餅つき」と使用して読めないとは思えない。

「鹿の子」(かのこ)は知らないかもしれないが、「鹿児島」は知っているはず。また、単に「鹿」という動物名なら、わかると思われる。これは、「鹿の子」という語(ことば)を知らないのであって、「鹿」の字を知らないのではない。

「領袖」「陶冶」「進捗」、これらは、まあ読めないだろうとは思う。しかし、たとえば、「拉致」であっても、いまでこそ読める字ではあると思うが、状況が変われば似たようなものかもしれない。

さて、では、何故、この種の調査がNHKによって行われているのか。本来ならば、新常用漢字表の委員会において、すべきことではないのか。(といって、NHKがやって悪いという意味ではないので。)

何度も書いてきた。漢字だけの頻度調査から漢字のことがわかるはずがない。考えるべきは日本語の表記のあり方である。

なお、NHK放送文化研究所による調査は、次の論文で読める。

視聴者はどのくらい“漢字表記”を求めているのか〜「放送における漢字表記についての調査」から〜
メディア研究部(放送用語) 塩田雄大
http://www.nhk.or.jp/bunken/book/pdf/d08.pdf

放送では触れていなかったが、上記の論文には貴重な指摘がある。

今回の調査結果で特筆すべき点があるとすれば,「学歴」による文字表記志向の異なりである。人間は,自分以外の人がどのような言語的志向を持っているのかを冷静に想像することが,思いのほか苦手なのではないだろうか。「このぐらいの漢字はだれでも読めるだろう」「漢字で書いてあったほうがだれにとっても理解しやすいだろう」と思ったとしても,その判断が客観的である保証は,実はなかなか得がたいのである。自分の言語的志向は,あくまで「ワンノブゼム」にすぎないことを常に意識しておく必要があるだろう。

常用漢字表を議論している委員のひとたちには、この「ワンノブゼム」の意識があるだろうか。

當山日出夫(とうやまひでお)