飛翔体:政治的な文字

2009/04/05 當山日出夫

たまたま、偶然、11時30ごろ、テレビをみていた。

単に文字の問題として、各テレビ局の判断は、かなりゆれていた。

・飛翔体(ルビなし)
・飛翔体(「翔」にルビ)
・飛翔体(「ひしょう」とルビ)
・飛しょう体(「翔」を仮名に)
・単に「ミサイル」(※これが一番わかりやすいが。)

どの局がと憶えていないが、30分ほどの間に、めまぐるしく表記が変化した。おそらく、テレビ局の校閲関係からアドバイスが入ったのだろう。

おそらく、政府の発表において、「飛翔体」の語が使われていて、テレビ局は、最初、そのまま使った。しかし、「翔」は、現行の常用漢字にない。「新常用漢字(仮称)」にもない。ただし、人名用漢字にはある。

政府発表が、公文書とするならば、公文書を常用漢字で書くかどうかよりも、政治的判断を優先させたということだろうか。人工衛星とも、ミサイルとも、確認できない段階で、どう称するか、迷うところ。となれば、空に向けて何かを打ち上げた=飛翔体、としか言いようがない。

公文書、放送で使用の文字の目安としての常用漢字をめぐる混乱を見ることができた、というべきであろうか。

當山日出夫(とうやまひでお)

追記

「飛翔体」の表記、Googleニュースで、種々の記事を見ても、かなりゆれている。ひょっとして、これを契機に、「翔」を「新常用漢字表(仮称)」に入れるべきの議論がおこるか? すくなくとも「鷹」の字よりも、日本国の安全にかかわる文字であることは確かなようだし。

誤報でも「飛翔体」

2009/04/05 當山日出夫

uakiraさんの日本語練習中 「飛翔体」と共に球春到来
http://d.hatena.ne.jp/uakira/20090405

なるほど、前例があるのかと思う。で、どうせ誤報と思って、そう詳しく見ることもなかった、今日の新聞を見る(朝日新聞、大阪版)。

昨日(4月4日)に、防衛省は、北朝鮮のミサイル(と称しておく)の発射で誤報をやってしまっている。そのとき、使っている用語が、やはり「飛翔体」。

つまり、政府発表においては、あるいは、防衛省用語においては、「飛翔体」という語(表記)は、前もって決まっていたということになる。相当の確信犯である。

この場合、論点を整理するならば、
・日本の政府の用語としての「飛翔体」という使い方、その用例
・これを報道するとき、これでいいかどうか。ルビの必要はないか、仮名に開く必要はあるか。
ということになるであろうか。

「銑鉄」の「銑」の字が、常用漢字から消える(はず)。おそらく、この字も、製鉄、鉄鋼業関係の法令や規格などでは、使用例があるはず。「匁」も、真珠の国際取引の単位である(実際には、ローマ字で書くかもしれないが)。

この意味では、強いてどうのこうのということはないかもしれないが、よりによって「新常用漢字表(仮称)」が問題になっているとき、堂々と使うというのは、どうかと思う。

ミサイルだかロケットだか、なんだかよくわからないが、空を飛ぶ物体を、「飛翔体」というのであるならば、軍事的な(あるいは、政治的な)専門用語ということになるのか。

そういえば、「拉致」という語も、以前は、「ら致」と書いていた。北朝鮮関係用語(?)で、字が増えていく。政治的配慮の影響とすべきかもしれない。

當山日出夫(とうやまひでお)