仮名の書体

2016-07-31 當山日出夫


昨日は、仮名の位相ということについて、ちょっとだけ考えてみた。今日は、仮名の書体ということについて考えてみたい。


書体、字体、字形……というように階層構造でとらえたとき、平仮名とか片仮名とかは、どこにどう位置づけられるだろうか。漢字から派生した文字として、この枠組みの中で考えるならば、書体のレベル、ということになるだろう。つまり、平仮名という書体、片仮名という書体、を認定するのである。漢字と、そこから派生した仮名を同じ枠組みのなかで論じようとすると、この考え方がいいように思える。


これはこれで、一見すると合理的な考え方のようにも思える。だが、別の観点から見ると問題がある。それは、明朝体とかゴシック体とかの問題である。現実に、仮名をコンピュータで使用するとき、そのフォントの選択と無縁ではありえない。いや、フォントの範囲のなかでしか、仮名を使うことができない。


では、明朝体の平仮名や片仮名、ゴシック体の平仮名や片仮名、これは、何の違いになるのだろうか。フォントの違いでもある。これは、具体的には、字形レベルの議論になるだろう。実際の文字における字形デザインを認識することになる。


そうではなく、書体のレベルの議論として、明朝体という書体とその書体でデザインされた平仮名や片仮名、と考えることもできる。これは、漢字を考えるときに、楷書・行書・草書などの書体を設定して、その書体の中に漢字の字体がある、と考えるのと同じである。


明朝体、ゴシック体、という書体が問題になることは、かなり以前、このブログでも論じたことがある。JIS規格や、常用漢字の字体を論じているつもりであっても、実際には、明朝体のデザインを論じていることになりはしないか、という問題である。


明窓浄机 YAMAMOMO 2010年3月25日
なぜ明朝体なのか
http://d.hatena.ne.jp/YAMAMOMO/20100325/1269496027


このような観点からは、明朝体やゴシック体という書体を認定して考えた方がよさそうである。そして、現実の問題として、コンピュータで使う文字としては、明朝体の平仮名とか、ゴシック体の平仮名とかを、使っている。フォントの問題としては、MS明朝とか、メイリオとかの問題になる。


となると、次のような問題が生じる。書体という用語をつかって、仮名の何をあらわすことになるのか。二つの観点があることになる。


第一には、平仮名や片仮名というものを、仮名の書体と認識する立場。仮名を漢字と同じように階層構造で把握するのには、この方式がよい。


第二には、具体的に文字をデザインするときの様式として、明朝体やゴシック体があり、そのなかに平仮名や片仮名があるとする立場。現実にコンピュータで使う文字を考えるには、この方式がよい。


以上の、二つの異なる立場あることになる。


現時点で、私としては、どの立場に立つということもないのであるが、論点の整理としては、以上のようになるかと思っている。