常用漢字表からの削除と印刷標準字体

2009/06/04 當山日出夫

この問題、あまり論じられていないように思えるのだが、いかかであろうか。

「新常用漢字表(仮称)」試案、では、現行の「常用漢字表」から、

勺 錘 銑 脹 匁

が、「削除」の候補になっている。また、パブリックコメントにも、追加案からの削除以外にも、現行の常用漢字表からの削除希望がある。

では、現行「常用漢字表」から削除された漢字は、「印刷標準字体」(表外漢字)とは、どのような関係になるのか。

(1)印刷標準字体を改訂して、その中にふくめる。
(2)削除するのみで終わる。印刷標準字体には関知しない。

現実の、今の漢字は、
常用漢字表の漢字
・印刷標準字体の漢字
・それ以外の漢字(上記の中にはふくまれないが実際には使う字)
に分かれている。実際には、ダブルスタンダードの状況を甘受しない限り、実際の日本語表記は、(現在の日本語については)無理である。「目安」であるから、当然ともいえるが。

(1)の場合。
もし、削除文字「勺・錘・銑・脹・匁」を、印刷標準字体に入れる、つまり、印刷標準字体の改訂ということになった場合、

(A)この5字のみを追加するにとどめるか。
(B)印刷標準字体の改訂ということで、毒をくらわば〜、ということで、新常用漢字表との字体の整合性を維持するために、改訂ということになるか。

(2)の場合。
これまで、常用漢字であった字を、印刷標準字体という、少なくとも現代日本語において、比較的使用頻度が高いと判断された文字の集合からも、排除することになる。では、これらの字は、印刷標準字体にも入らない文字であるということが、立証されているか。

印刷標準字体を決めたときの判断基準にさかのぼって、再評価する(場合によっては、いれないこともありうる)。あるいは、「旧・常用漢字表」の文字ということで、現行の印刷標準字体とは、別の判断基準によって、印刷標準字体を改訂する。

印刷標準字体それ自体については手をつけない、という原則・方針はあるとしても、「国語施策の一貫性」という観点からは、きわめて重要な問題点である。いうまでもなく、「国語施策の一貫性」というのは、「新常用漢字表(仮称)」の基本をなすものである。

この点を明確にしないということは、印刷標準字体をないがしろにするものである、というそしりをうけてもやむをえないであろう。つまり、字体の整合性の論と、密接に関係している。

當山日出夫(とうやまひでお)

追記
ここで確認しておきたいのは、「印刷標準字体」から「新常用漢字表」に字をとりこむ場合は、字体の整合性で問題がおこる、このことは、さんざん議論の対象になっている。しかし、削除する字については、どうであるか、という視点からも考えなければならない。私のここでいいたいのは、この「削除」からの視点である。

追記(2)2009/06/08
狩野さんのご指摘によって、「錐」→「錘」に訂正しました。
自分でも「試案」を確認しました。狩野さんありがとうございました。