草仮名は漢字か仮名か

2016-08-02


これまで考えてきたことをまとめてみると次のようになる。


仮名の種類として、
(1)真仮名
(2)草仮名
(3)平仮名
(4)片仮名


を認めるとして、(1)真仮名を、漢字から派生したものとして、書体の概念であつかうことは、特に問題ないだろう。


それから、(2)草仮名についても、これは、漢字の草書体であるのだから、漢字(楷書・行書)にもどすことができる、この意味では、書体の概念で漢字から派生したものとしてあつかうことに、問題はない。


だが、(3)平仮名、(4)片仮名になると、漢字とは別の文字と認定することになるのかもしれない。そうなると、漢字との連続性として、その書体ということはできない。むしろ、明朝体とかゴシック体とか、活字やフォントのデザインの観点からとらえることが、妥当であるように思われる。


ところで、草仮名は、漢字にもどすことができるといっても、実際には仮名(変体仮名)の一種としてあつかわれていることが多いように思う。たとえば、


笠間影印叢刊刊行会(編).『字典かな−出典明記−』(改訂版).笠間書院.1972


などは、今般の変体仮名ユニコード提案の企画で、重要な資料となった本である。学術情報交換用変体仮名のHPでも、出典のひとつとして明示してある。


術情報交換用変体仮名
http://kana.ninjal.ac.jp/


この本(『字典かな』)では、『秋萩帖』の用例も、変体仮名と同列にあつかってある。特に、用例の最初に掲出されることが多い。これは、『秋萩帖』が草仮名である、いいかえるならば漢字からそうへだたってはいない(あるいは、まだ漢字である)ことに起因する。この『字典かな』は、字母となった漢字から、その崩しの程度の順にならべるようになっている。(この観点では、他の変体仮名字典の類も同様である。)


そうなると、次のような疑問が生じることになる。『秋萩帖』の文字は、変体仮名なのであろうか(仮名として漢字ではない)、それとも草仮名として漢字との連続性をたもっているものなのであろうか。


つまり、草仮名文献である『秋萩帖』の用例を、変体仮名の用例として採用することは、妥当なことなのであろうか、ということになる。この点について、結論としては、ユニコード提案の変体仮名の企画においては、変体仮名のなかにふくめるという方針で対処することになった。


このような視点で、変体仮名の一覧(HPに掲載のもの)を見てみると、かなり漢字にちかい、漢字との連続性をたもっているようなものを多くふくんでいることに、あらためて気づく。


だが、その一方で、世間一般でいう変体仮名(崩し字といってもよいかもしれないが)を考えるとき、『秋萩帖』に見られるような文字についても、変体仮名の用例としてあつかうのが通例である、という事実がある。たとえば、『日本国語大辞典』(第二版)などがそうである。ユニコード変体仮名提案においては、世間一般の常識的見解にしたがうことになったのである。